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経済 農林水産業最前線 日本の原風景・棚田を守る

2019年05月27日
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長野・飯田市「よこね田んぼ」

山や谷の傾斜地に階段状に造られた水田「棚田」――。多面的な機能や存在価値を持つ一方、近年、農業の担い手不足により耕作放棄されている地域もあることから、将来に向け保全への機運が高まってきた。公明党も、棚田地域振興プロジェクトチーム(座長=魚住裕一郎参院会長)を中心に、新たな法的枠組みを含めた一層の振興へ議論を続けている。そこで、地域を挙げて保全活動を進める棚田の一つ、長野県飯田市の「よこね田んぼ」を訪ねるとともに、保全の必要性について早稲田大学の中島峰広名誉教授に聞いた。

 

■田植え体験など交流の場づくり

 

形の異なる多様な田んぼと雄大な山の新緑が、独特な風景を織り成す。長野県飯田市の千代地区にある棚田「よこね田んぼ」。18日午後、ここで田植え体験が開かれた。初夏の日差しにきらめく一枚一枚の田に、次々と入る小学生たち。ぬかるんだ泥に足を取られながらも、中心者の掛け声に合わせて苗を一列ずつ植えていく。

 

地元住民の有志らでつくる保全委員会とNPO法人・里山べーすなどが主催した毎年恒例のイベントで、この日は地区内外から集まった90人ほどが農作業に携わった。約30枚の田に植えたのは、同県産の食用米「風さやか」と酒米「たかね錦」。10月には、稲刈り体験や収穫祭も予定しており、参加者は豊穣の秋を迎えることを心待ちにしていた。

 

よこね田んぼは、農林水産省のに認定されている棚田の一つで、山の斜面に沿った耕地面積3ヘクタールに110枚もの田が並ぶ。近年は、農家の高齢化などの課題に直面しているとはいえ、都市住民が棚田のオーナーのような形態で生産に関わるなどして保全活動を推進。地区の財産として後世に継ぐとともに、人と人とをつなぐ交流の場として定着している。

 

棚田を守るため、工夫を凝らした取り組みも。7月には、昨年に続き、田に生息する生き物の生態系を学ぶ「生き物探検」を実施する予定。天体望遠鏡で星空を眺める「星空イベント」も計画中だ。さらに、地方に移住して活性化に取り組む「地域おこし協力隊員」らが携わり、棚田で栽培された酒米を使った日本酒を商品化し、近く販売する計画も進めている。

 

保全委員会委員長の関口俊博さん(68)は、「貴重な棚田を若い人に継承したい」と意気込む。地域ぐるみで、棚田を守る取り組みが続く。

 

■(現状は?)深刻な担い手不足に直面

 

農林水産省が行った統計調査によると、棚田は全国に5万4000カ所、計約14万ヘクタールある(最新のデータとなる2005年の「農林業センサス」から)。地方別の面積割合では、中国地方が43%(約6万ヘクタール)と最多。面積や分布の経年変化を捉えたデータは、ないという。

 

棚田【イラスト参照】は、コメ作りを主体に、国土の保全や水源のかん養、美しい景観、文化の伝承など多面的機能を持つ。しかし、傾斜地という地形的特徴もあって多大な生産費用と厳しい耕作条件を要し、担い手不足が深刻化している状況だ。維持や保全に努力している地域もあるが、ばらつきがある。

 

そこで、棚田を核にした地域の振興を図るため、既存の支援策を活用しつつ、関係府省庁の関連施策をパッケージで集中的に投入する「棚田地域振興法案」(議員立法)の今国会への提出が検討されている。

 

■(保全の必要性)労働の結晶。洪水調節機能も/早稲田大学・中島峰広名誉教授に聞く

 

――棚田の現状をどう見ていますか。

 

中島峰広名誉教授 長年、研究を続けてきた者として残念なことだが、景観など魅力が多いものの、農村の過疎化、農家の高齢化の進展によって厳しくなっていると見ている。私が農林水産省の資料を基に算定した棚田面積によると、約20年前の1988年に22万ヘクタールだったが、05年の調査では14万ヘクタールにまで減少している。さらに、棚田を守ってきた人の多くは昭和一桁生まれの世代で、80歳を超えている。現地で対話すると、「70代までは頑張ったけど、今は気力があっても体力がついていかない」という声を聞く。そうした現実がある。

 

――今後の保全に向けて必要なことは。

 

中島 新規就農者や若い移住者を積極的に受け入れ、担い手として育てていかなければならない。ただ、その担い手が地域に根付くためには収益の安定した見通しを立てられることが不可欠。地域の農家と相談し、生産活動はもちろん、棚田を生かした町おこしも考えてほしい。例えば観光資源などとして活用し、成功している地域は石川県輪島市の「白米千枚田」など数少ない。各地とも知恵の絞りどころだ。

 

――そもそも保全する意義については。

 

中島 棚田での生産活動は確かに効率が悪い。斜面が急な上、一枚一枚の面積が狭いため平地の水田に比べて労力がかかる。だからこそ、発想を転換してほしい。経済効率とは一線を画す多くの利点があると。例えば、降った雨を貯留する「小さなダム」となり、全国の棚田の総面積における洪水調節容量は、日本を代表する黒部ダム(富山県)の貯水量の数倍に及ぶ。また、耕作によってできた土層が地滑りの誘発を防いだり、自然環境や水辺があることで多種多様な昆虫や植物が築く生態系を保全することなどだ。

 

過去の話だが、昭和初期に来日した米国の地理学者が、旅行で観た棚田を「農民が何百年にわたり耕し続けた労働の結晶。エジプトのピラミッドに匹敵する」と絶賛した。棚田は、先祖代々伝わる景観や文化と相まって、地域に残る日本の宝だ。地元で大事にしようとの認識を共有し、守っていく機運が高まらないと将来にわたる保全は難しい。

 

■「振興法」実現は長年の悲願

 

――今国会に「棚田地域振興法案」を提出する動きがあります。

 

中島 法案には政府が棚田地域の振興に関する基本方針を定め、閣議決定するよう規定されている。また、都道府県はそれに基づき、「地域振興計画」を定めることができるようになる。法制化は、われわれ棚田関係者の国会議員に対するロビー活動(働き掛け)の成果で、長年の悲願とも言える。公明党も、元衆院議員の西博義氏が旗振り役となり、超党派の国会議員による「棚田振興議員連盟」の設立に関わって下さった。以来、関心を持ち続けて下さっていることを評価したい。今国会での法成立を望みたい。

 

この法律が施行されれば、棚田地域の振興が具体化していく第一歩になるが、関連施策はトップダウン型ではなく、関係者がボトムアップ型を徹底して進めていくことが必要だ。公明党にはその推進力になって下さるよう期待したい。

 

なかしま・みねひろ 1933年、宮崎県生まれ。早稲田大学教育学部卒。開成学園教諭、早稲田大学教育学部教授などを経て、現在、同大学名誉教授。NPO法人・棚田ネットワーク代表。棚田学会顧問。棚田サミット開催地選定委員長。著書に『日本の棚田―保全への取組み』(古今書院)など。

 

公明党ニュース

(経済 農林水産業最前線)日本の原風景・棚田を守る/長野・飯田市「よこね田んぼ」



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